苦海日録

クンパカン、川を堰き止める!

十二月二日土曜日の午後、「コーン」というタイの仮面劇を観に行く。タイ文化センターの二千席のメインホールは満席だった。観客は小学生から高齢の方まで幅広く、ほとんどがタイ人である。華やかな民族衣装に身を包んだ人もいて、私も来年は挑戦してみよう…

再読に誘う批評は貴重なプリズムである

再読を促してくれる文章は、どんな種類のものでも貴重である。 この数週間、私のワーキングメモリはまったく機能しなかった。文字は私の眼の前にあり、ひと文字も逃さずに追っているが、一行前に書いてあったことがもう思い出せない。もうすぐ三歳になる娘の…

チャンタテーン滝

チャンタテーン滝に行ってきた。穏やかな海を眺めているとだんだん水と自分が一体になったような気がしてきて、勢いのある姿も見てみたいというもの。しかし今は乾季だから、入り口で「干上がってる」と半ば脅すように言われて、それでも私たちは行くのだと…

文学の楽しみに身をまかせる

去年の生誕祭の少し前、夫の友人から工芸茶を頂いた。工芸茶というと人間の手が加えられた高度な芸術品というイメージが先行するが、Flower teaである。紐で括られ丸く縮こまっていた草花がゆっくりと開き、湯のあいだをしばらく揺蕩う。おそらく最も美しい…

本を読むことは、諦めることから始めなければならない、とはまだ言いたくない

一月十九日は、私の誕生日だった。本厄から後厄に移り、母から念を押して「まだ厄年なので」と注意を受けて早々、体調を崩してしまった。これが後厄の洗礼なのかしら、と気が沈んでいたが、いまは回復し、机上の薔薇を眺めている。窓を全開にすると海風が薔…

海と机上を定点観測

渡泰八年八ヶ月。ようやく自分だけの机と椅子ができた。 目の前には穏やかな海が拡がっている。近くに大きな港があって、部屋の窓の正面はちょうど入港を待つコンテナ船やバルク船の溜まり場になっている。クレーンの首を右に左に据えた大型のコンテナ船はそ…

2022年に読んだもの

2023年は七日が去った。年末年始は引っ越しで忙しかったので、ようやく2022年の読書を振り返る。年始に届いたお気に入りの緑の机のうえに、去年読んだものを読み終わった順に左から並べて写真を撮ってみた。 ドストエフスキー『罪と罰』 ドストエフスキー『…